命が尽きる直前まで・・思い出すのは恋のことや愛した人のこと

ある一人の年老いた男の物語


今、一人の老いた男の命の炎が燃え尽きようとしている。


その老いた男は、約20年前に事故で頭を強打した。


頭部からの大量に出血により、辺り一面は赤黒い血の海と化した。


その血の海の中に、男は四つん這いの態勢のまま・・意識は朦朧としていた。


その後、即刻救急車にて近くの大きな病院へ搬送され、緊急手術を行った。


ICUにて生死の境を彷徨うこと数日・・・


死の淵からの生還を果たし、どうにか命をつないだ。


しかし、頭部を強打し大手術を行った代償はとてつもなく大きかった。


脳の記憶や言語をつかさどる部分に深刻なダメージが残ったのだ。


さらには、自分で立つこともできず、ベットで寝たきりの生活を余儀なくされた。


いわゆる植物状態と呼ばれる状態である。


突然回復するはずもなく、先の見えない日々が続く・・・。


来る日も来る日も、その男の妻を中心とした家族が、ベッドに横たわる男に声をかけ励まし続けた。


そんな日が続いたある日のこと、、


ついに男が目を覚ました。


そこから、家族の献身的な看護により、男はほんの少しずつ、少しずつ、ゆっくりとではあったが着実に回復していった。


家族の応援と愛情を受け、壮絶なリハビリにも耐えて、やがて男は車椅子ながら自らの意思で動けるようになる。


そして、自分で食事をとれるようにもなり、話せる言葉も日に日に増えていった。


その男は、手術から数年の月日をかけ、植物状態から奇跡の復活を果たしたのだ。


とはいえ、脳へのダメージは完全には回復せず、記憶や言語の障害は残っていた。


家族の顔と名前すらも認識できていなければ、ついさっき自分が話したことすら覚えていないという状態。


さらには、日常のさまざまな局面において、我慢をすることも、気を使うということもできないため、わがまま放題で何かあれば人を口汚く罵った。


これらは、事故の後遺症によるもので、仕方のないことだと頭では理解しているものの、無性にイラついたり怒りを覚えることもしばしばであった。


この事を、最初はなかなか受け入れ難かったが、時間とともに男の家族みんながそれを受け入れられるようになった。


日常生活におて、わがままな態度や憎まれ口が多かったものの、機嫌が良い時に見せるシワだらけの笑顔や愛想の良さなどには心和まされることもあった。


その老いた男には、機嫌の良い時に必ず口にする話題があった。


それは、昔に出会った美しい女性の話や、自身が女遊びをしていた時の話。


それらの話をうれしそうに話すのだ。悪びれもせずに・・・。


来る日も来る日も、飽きもせずに女の話を繰り返す。


事故により、家族の名前やこれまでの人生におけるほとんどのことを忘れてしまった中で、女や色恋に関する思い出は覚えていた。


そして、その男は事故から約20年の月日を生きてきた。


その間も、常に女の話は欠かすことはなかった。


それほど、その男にとっては大切で美しい思い出なのであろう。


今、その老いた男はベッドの上で長かった人生の幕を静かに閉じようとしている・・・。


ただただ、美しき思い出だけを胸に抱いたまま。


おわり


あとがき


ご精読ありがとうございました。


もしかして、気づかれた読者さまもいらっしゃるかもしれませんが・・


この短い物語に出てくる老いた男は、私の父です。


今、この記事を書いてるこの時も、いつ何があってもおかしくはない状態が続いております。


昔から、とにかく女性のことが好きな父でした。


その父が、私や家族のことはほとんど思い出せないのに、好きだった女性や恋の話などは覚えている、、


そのことが、私の中で強烈に印象に残っています。


昔に出会った素敵な女性のことや、自らの美しい恋の物語などは、それだけで一生語れるほどの貴重で素晴らしい宝物なのだと再認識しました。


ですから、このブログの読者さまにも、そんな貴重で素敵な経験をたくさんしてほしいし、思い出という宝物を手にしてほしいと思います。


この先も、読者さまの恋のお手伝いに力を注いでいこうと、あらためて強く感じました。


そして、いろいろな記事で読者さまと喜怒哀楽といった感情を共有できたらいいなとも思います。



人生は一度きり、時間は有限です。



ともに、できるだけ楽しく精一杯生きてやりましょう。


ではでは、これからもよろしくお願いいたします。


桜井